歯科医療情報推進機構(IDI)
歯科用器具は汚いの?なぜ使いまわしが問題なの?感染経路としての口腔
連載2

歯科用器具は汚いの?なぜ使いまわしが問題なの?感染経路としての口腔

歯科用器具は汚いの?なぜ使いまわしが問題なの?感染経路としての口腔こんな都市伝説を聞いたことがありませんか?
「キスで虫歯が伝染る」そもそも虫歯、歯周病の原因菌はどこから来るのでしょうか?生まれたばかりの赤ちゃんの口には虫歯の原因となるS.mutans、Lactbachirusはいません。虫歯菌はじめ口腔細菌の多くは乳幼児期に親(特に母親)の唾液から伝播するということは揺るぎない事実として科学的にも証明されています。
赤ちゃんが食べやすいように、母親が噛んで軟らかくすることや、親が使用した箸を使って食べ物を与えるということはよく当たり前のことです。しかしそれは虫歯菌を赤ちゃんに伝染している可能性があります。その是非は別として、口は病原細菌、ウイルス感染の代表的な入口なのです。
参考)1)Berkowitz RJ, Jones P: Mouth-to-mouth transmission of the bacterium Streptococcus mutans between mother and child. Arch Oral Biol, 30:377-9, 1985.

 様々な病原細菌、ウイルスは何らかの媒体を経て我々の体に伝染します。
風邪、インフルエンザや肝炎、性行為感染症など、その媒体は血液、唾液、様々な分泌液です。その中で最も感染性が高いのは血液です。
 一方で、感染の成立を防ごうとする防御機構も存在します。皮膚や粘膜です。病原細菌、ウイルスが体内に侵入することを防ぐバリヤーです。粘膜は皮膚に比べて脆弱です。口の中の粘膜は常に傷つきやすいところです。常に引っかき傷が絶えません。知らないうちに口内炎ってできるでしょう?あれは知らないうちに粘膜を傷つけているのが原因です。そこから簡単に微生物は侵入していきます。つまり、傷ついた粘膜のところで血液を含んだ分泌液がやりとりされるとウイルス感染、細菌感染が成立してしまう可能性が生じてくるのです。
 歯科医療行為では簡単な歯石とりから、膿を切って出す、抜歯など出血を伴う機会が多いです。患者さんに使用した器具にはそんな血液の混じった唾液、分泌物が付着しています。器具の使い回しをすると、それに付着した分泌物のやり取りが行われ、細菌感染が成立しやすくなるのです。

 そこで次に、その確率が気になります。
医療現場での問題のひとつに、患者さんに使った針などの鋭利なものを医療者が誤って刺してしまう"針刺し事故"があります。患者さんが感染症だと、これで医療者が感染してしまうリスクがあります。労災です。私もHBV患者さんの針刺しをしてしまったことがあります。この針刺し事故による感染率については報告があります。
CDC の報告では、HIVでは0.3%、HCVでは1.8%、HBVでは1-62% でした。
参考:Updated U.S. Public Health Service Guidelines for the Management of Occupational Exposures to HBV, HCV, and HIV and Recommendations for Postexposure Prophylaxis  CDC MMWR June29, 2001/ Vol. 50 / No. RR--11 / Pg. 1 – 54

また本邦の針刺し事故の実態についての報告によれば3年間でエイズ拠点病院延べ608施設から15,119件(解析可能データは11,798件)で、HIV陽性患者での針刺し切創は88件(0.6%)であり、感染例は0件、HCV陽性患者での針刺し切創7,708件(51%)であり、感染発症例は28件、HBV陽性患者での針刺し切創は1,862件(12%)であり、感染発症は判定不可だったそうです。
参考: HIV感染症に関する臨床研究針刺し事故の現状と対策:1996〜1998年(3年間)のエイズ拠点病院における針刺し・切創事故調査結果

 この中でHCVの感染率は0.36%と計算できます。そしてC型肝炎に感染したら、10~15年の非活動期を経て活動期になります。肝機能悪化。確実に肝硬変・肝癌と進行していきます。その実態を国立感染症研究所が公表しています。

 (C型肝炎に感染したら、10~16%の症例は初感染から平均20年の経過で肝硬変に移行する。肝硬変の症例は、年率5%以上と高率に 肝細胞癌を発症する。肝癌死亡総数は年間3万人を越えるが、その約8割がC型肝炎を伴っている。人口動態統計によると,2006年の癌(悪性新生物)死亡者数は329,314人で,そのうち肝癌による死亡者は33,662人,全癌死の10.2%を占めている。

その他の感染症も同じようなことがいえるでしょう。直接針を刺して血液が体内に侵入して感染成立するよりも、唾液や唾液に混じった血液が口腔粘膜の破れた傷から侵入して感染成立する確率は低いことは想像できます。しかし`0`ではありません。確率としては低いものの、0ではないことは問題です。歯科器具を使い回すことの危険性というのはこういうことなのです。